陸游詩 | 唐婉詩 |
紅酥手 黄滕酒 | 世情薄 人情悪 |
滿城春色 宮墻柳 | 雨送黄昏花易落 |
東風惡 歡情薄 | 暁風干 泪痕残 |
一懷愁緒 幾年離索 | 欲箋心事 独語斜欄。 |
錯!錯!錯! | 難!難!難! |
春如舊 人空痩 | 人成各 今非昨 |
涙痕紅?鮫?透 | 病魂常似鞦韆索 |
桃花落 閑池閣 | 角聲寒 夜闌珊 |
山盟雖在 錦書難托 | 怕人詢問 咽泪粧歡 |
莫!莫!莫! | 瞞!瞞!瞞! |
紅く酥(やはら)かき手 黄縢の酒 | 世情は薄く 人の情は悪し |
滿城の春色 宮牆の柳 | 雨黄昏を送り 花落ち易く |
東風惡く 歡情薄し | 暁風乾き 泪痕残す |
一懷の愁緒 幾年の離索 | 心事を箋に欲せんとし 独語し欄に斜す |
錯(あやま)てり 錯てり 錯てり | 難(かた)し 難し 難し |
春舊の如く 人空く痩す | 人各々に成り 今は昨に非ず |
涙痕紅(あか)く(にぢ)みて鮫(ハンカチ)に透る | 病魂 常に千秋(ブランコ)の索くに似たり |
桃花落ち 閑かなる池閣 | 角声(軍隊で夜中に吹く角笛)寒く 夜爛珊たり |
山盟在ると雖も 錦書托し難し | 人の尋問を怕れ 咽泪せしも歓を装う |
莫(さび)し 莫し 莫し | 瞞(あざむ)かん 瞞かん 瞞かん |
世情薄、 人情悪。
三十年になれば思いはうすくなるもの、人の情けを思うことはよくない
雨送黄昏花易落。
雨と黄昏はともに花が散りやすくし送ってくれている。
暁風干、 泪痕残、
風は乾かすことを悟らせ、それでも涙は後を残す。
欲箋心事 独語斜欄。
手紙(詩)を書こうとする、心に思うことを実行する、自分勝手な言葉、正しくない遮り。
難!難!難!
はばかれ、どうして、とがめたい
三十年になれば思いはうすくなるもの、人の情けを思うことはよくない
雨と黄昏はともに花が散りやすくし送ってくれている。
風は乾かすことを悟らせ、それでも涙は後を残す。
手紙(詩)を書こうとする、心に思うことを実行する、自分勝手な言葉、正しくない遮り。
はばかれ、どうして、とがめたい
人それぞれ成長するもの、今日は昨日ではない、病のような思いというものは何時の世もブランコの縄のようなもの。
角笛の音色というものは寒々と響くもの、夜は珊瑚をさかりがすぎてしまった。
人は怖いもの、問われ尋ねられること、啼いて涙を流すこと、装った悦楽の言葉。
あざむく。はじる。はずかしい。
釵頭鳳
世 情は薄なり 人 情は悪なり。
雨送り 黄昏、花易落。
暁風は乾かし、 泪痕は残る
箋 心事を欲せん 独語 欄に斜す
難(かた)し 難し 難し
人各々に成り 今は昨に非ず。
病魂 常に千秋(ブランコ)の索くに似たり。
角声 寒く 夜にして珊を爛し、
人の尋問を怕れ 咽泪せしも歓を装う
瞞(あざむ)かん 瞞かん 瞞かん
釵頭鳳
唐?南宋の頃から沈園は江南の有名な私家庭園で、今も残る園内のヒョウタン形の池、石板橋、池辺の築山、井戸はみな南宋時代のもの。
唐?は一緒に来ていた夫の許しをえた上で酒肴を陸游のもとにとどけさせる。
その後、唐?たちが帰ったあと、陸游が庭園の壁に書き付けたのが、「釵頭鳳」(さいとうほう)という詞に対し、返信の如く書き綴ったのが次の詞、同じく「釵頭鳳」である。
世情薄、人情惡、 雨送黄昏花易落。
三十年になれば思いはうすくなるもの、人の情けを思うことはよくない
○世 三十。30歳。○情薄 情は薄くなる ○惡 人の情の移り変りをわるくする。だれだれが悪いといっているのではない。
雨送黄昏花易落。
雨と黄昏はともに花が散りやすくし送ってくれている。
曉風乾、涙痕殘。
風は乾かすことを悟らせ、それでも涙は後を残す。
三語、三語の啖呵を切っている。
欲箋心事、獨語斜闌。
手紙(詩)を書こうとする、 心に思うことを実行する、自分勝手な言葉、正しくない遮り。
二語二語、二語二語、というのは、啖呵を切っているので句ではないのである。ここでは、欲箋 心事、獨語 斜闌と文章ではない。・欲箋 手紙(詩)を書こうとする、 ・心事 心に思うことを実行する、・獨語 ひとりごと、自分勝手な言葉、 ・斜闌 正しくない遮り、斜:正しくない。闌:さえぎる、せき止める(唐?がせっかく落ち着いてきて安定した生活を取り戻したことを遮ったり邪魔をすることはよくない)
難!難!難!
はばかれ、どうして、とがめたい。
(前の啖呵「欲箋 心事、獨語 斜闌」を受けてのことばである)
女子は最初嫁いだ家のために別の家に嫁ぎ最初の家の弾に尽力するということも考えられたが、この場合どうも違いようである。やはり、お母さんが陸游の出世のために唐?をいいところへ嫁がせたのであろうがうまくいかなかったということか。
人成各、今非昨、 病魂常似鞦韆索。
人それぞれ成長するもの、今日は昨日ではない、病のような思いというものは何時の世もブランコの縄のようなもの。
ここも三語、三語の啖呵。○鞦韆(しゅうせん):秋千、ブランコ。○索 ブランコの綱。縄。
角聲寒、夜闌珊。
角笛の音色というものは寒々と響くもの、夜は珊瑚をさかりがすぎてしまった。
ここも三語、三語の啖呵。○角聲寒 角笛の音色というものは寒々と響くもの。ときのうつろいをあらわす。 ○闌 さかりがすぎる。さえぎる。おとろえる。 珊 珊瑚、珊瑚の弾。珊瑚は東海の海底で育つもの。時をやり過ごせば枯れてとることはできない。
「神農本草経」に「珊瑚は海底の盤石の上に生ず一歳にして黄、三歳にして赤し。海人先ず鉄網を作りて水底に沈むれば中を貫いて生ず。網を絞りて之を出す。時を失して取らざれは則ち腐る。」とある。な玉輪 鉄網の二句には奥に隠された意味があると思われる。例えば西晋の傅玄(217−278)の雑詩の句「明月常には盈つるあたわず。」という月が女性の容姿の喩えであるように、恐らく「顧免初生魄」は、少くとも、愁いを知りそめた乙女の顔、そしてその瞳への聯想をいざなうように作られている。また、熟せば赤くなる珊瑚、だがまだ枝を生じないから網でひきあげられてはいない。セックスについて未成熟であるというこの一句にはエロティックな意味がある。
その頃は燃えて赤くなっていたがもうそれも衰えてしまった
怕人尋問、咽涙裝歡。
人は怖いもの、問われ尋ねられること、啼いて涙を流すこと、装った悦楽の言葉。
ここも二語二語、二語二語の啖呵。・怕人:人は怖いもの。・尋問:問われ尋ねられること。・咽涙:啼いて涙を流すこと。・裝歡:装った悦楽の言葉
○裝 よそおう。おさめる。ふりをする。 ○歡 喜び楽しむ。愛し合う男女が互いに掛け合う喜びの表現。
瞞!瞞!瞞!
あざむく。はじる。はずかしい。
上の啖呵、怕人尋問、咽涙裝歡を受けての言葉である。