■ 杜甫 李白を詠う |
送孔単父謝病歸游江東,兼呈李白 杜甫 紀頌之の漢詩ブログ杜甫詩 特集 26
七言歌行
746年天宝5載 杜甫は李白と別れて洛陽にもどる
杜甫の父、杜閑が縁組の手はずをととのえていた。
杜甫、35歳、妻24歳、ともに晩婚である。妻の家柄はよく、役所の少卿の娘であった。杜甫はこのまま詩的放浪の生活をつづけていくことは許されなくなった。このまま洛陽にいては仕官は難しく、長安に出ることになった。
この詩は李白とも友人で杜甫も親しくしていた孔巣父が病気に託して官をやめてかえり、これから江南の方へでかえるのを送り、同時に李白におくるために此の詩を作った。
自是君身有仙骨,世人那得知其故。
元来、君がからだには仙人の本筋をもっているのであるし、世間の凡人はどうして君がその地位にとどまらぬわけを知ることができよう。
惜君只欲苦死留,富貴何如草頭露。』
凡人の心ではただひたすら君をひきとめようとおもうが、君は富貴は草のうえの露よりはかなく消えてしまうものだとかんがえている。』
蔡侯靜者意有餘,清夜置酒臨前除。
蔡君という人は寡黙の人で惜む気持ちは十分思っている、清夜、酒を用意してもてなしてもらうと寡黙がのぞかれ君に対することができる。
罷琴惆悵月照席,幾?寄我空中書。
席上にて琴を弾ずるものがあるがうらめしくも月光のみが席を照らしている、何年たったとしてもわたしにありないほど離れたところからの書を寄せてくれるだろうか。
南尋禹穴見李白,道甫問訊今何如。』
南の方、南穴のある地をおとずれて、李白に面会できたら、このわたしが「あなたの近況はどうなのか」とたずねていたとつたえてもらいたい。
(下し文)孔?父謝病歸し江東に游ぶを送る,兼ねて李白に呈す
巣父頭を捧って肯て住まらず、東将に海に入りて煙霧に随わんとす
詩巻長く留む天地の間、釣竿払わんと欲す珊瑚の樹』
深山大沢竜蛇遠し、春寒野陰風景暮る
蓬莱の織女は雲車を回す、虚無を指点して帰路を引く』
自ら是れ君が身仙骨有り 世人、那ぞ其の故を知ることを得ん
君を惜み只だ苦死して留めんと欲す、富貴は草頭の露に何如』
蔡侯は静者 意 余り有り、晴夜 酒を置きて 前除に臨む
琴を罷め 惆悵すれば 月 席を照らす、幾歳か我に寄せん 空中の書
南 禹穴を尋ねて李白を見ば、道え 甫 問訊す今何如と』
送孔?父謝病歸游江東,兼呈李白
孔巣父が病気に託して官をやめてかえり、これから江南の方へでかえるのを送り、同時に李白におくるために此の詩を作った。
○孔巣父 巣父字は弱翁、巽州の人、韓準、李白、裴政、張叔明、陶?と山東の徂徠山に隠居した。時にこれを竹渓の六逸と号した。李白の友である。○謝病帰 病と謝して帰るとは一度は官に仕え、病に託して官をやめて故郷にかえること。○江東 江南のこと、江は揚子江。○呈李白 呈とはさしあげるということ。これによれば当時李白が江南に在るときである。
?父掉頭不肯住,東將入海隨煙霧。
このたび孔巣父は、一応ひきとめてはみたことに対し、かぶりをふってどうしてもとどまろうとはしない、東の方神仙のすむ海中に入って煙霧のあとを追いたずねようとしている。
○埠頭 かぶりをふる、人の言うことをきかぬさま。○住この地に住みとどまること。
詩卷長流天地間,釣竿欲拂珊瑚樹。』
その名作を載せた詩巻は、永久に天地の間にのこしたままにし、釣竿でもって、海底にしっかり育った珊瑚樹を払おうとおもうている。』
○払 触れること。○珊瑚樹 海底に生ずるもの。「神農本草経」に「珊瑚は海底の盤石の上に生ず。一歳にして黄、三歳にして赤し。海人先ず鐡網を作り手水底に沈むれば中を貫いて生ず。網を絞りてこれを出す。時を失して取たざればすなわち腐る。」とある。網を作って珊瑚をとるならいいけど、釣り棹で振り払うのではいけないといっている。
深山大澤龍蛇遠,春寒野陰風景暮。
竜蛇が遠く深山大沢へ退かんとするように去ろうとしているのであるし、春寒く野もくもり、あたりのけしきも暮れかかっているようなものだ。
○大沢竜蛇 「左伝」襄公二十一年に「深山大沢、実に竜蛇を生ず」とある。ここは竜蛇を以て巣父に喩えている。○春寒 此の一句は別れんとするときの気象をのべる。○野陰 野原のうすく影になって暗いところをいう。
蓬?織女回雲車,指點?無引歸路。』
(まもなく)蓬莱山の仙女が五彩雲の車をもってこちらへ迎えに来てくれ、煙霧でわからない処を変えるべき道を指示し、導いてくれる。』
○蓬莱 海中の仙島。○織女 織女は天の河にあって五彩雲錦を織るものであるが、今は単に仙女の意に用いる。〇回雲車 回とは先方より巣父の方へとひきめぐらすこと。雲車は五色の雲のたなびく車。○指点 ゆびさししめす。○虚無 煙霧標紗とたなびく海の奥をいう。○引 みちびくこと。○帰路 巣父がかえるべき路。
自是君身有仙骨,世人那得知其故。
元来、君がからだには仙人の本筋をもっているのであるし、世間の凡人はどうして君がその地位にとどまらぬわけを知ることができよう。
〇自是 もとより。○骨 本筋 ○其故 とどまらぬわけ。人世富貴の境である官を辞すことをさす。
惜君只欲苦死留,富貴何如草頭露。』
凡人の心ではただひたすら君をひきとめようとおもうが、君は富貴は草のうえの露よりはかなく消えてしまうものだとかんがえている。』
〇惜君 惜は愛惜。○苦死 死にもの狂いでということ。○留 ひきとめる。○富貴 此の一句は巣父の心中をのべたもので、巣父の語とみなしてよい。○何如 比較の辞。富貴は羊頭の露にも及ばぬことをいう。○草頭露 はかなく消え易いもの。
蔡侯靜者意有餘,清夜置酒臨前除。
蔡君という人は寡黙の人で惜む気持ちは十分思っている、清夜、酒を用意してもてなしてもらうと寡黙がのぞかれ君に対することができる。
○蔡侯静者 察侯は察君というのに同じ。静者とは人がらの沈静なことをいう。寡黙な人。○意有余 別れを惜しむ意の尽きないこと。○置酒 酒を用意してもてなしてもらうこと。李白「終南山過斛斯山人宿置酒」(終南山下り斛斯山人を過り宿し置酒す)○前除 前を除く、寡黙で自分の意志を告げられないものが酒に酔って取り除かれる。
罷琴惆悵月照席,幾?寄我空中書。
席上にて琴を弾ずるものがあるがうらめしくも月光のみが席を照らしている、何年たったとしてもわたしにありないほど離れたところからの書を寄せてくれるだろうか。
○罷琴 席上にて琴を弾ずるものがあるのである。○惆悵 いたむさま。君が去っていないので。○空中青 雲中の書、天辺の書といういみでありえない書という意味。非常に遠方に離れるため空中といった。書はてがみのこと。
南尋禹穴見李白,道甫問訊今何如。』
南の方、南穴のある地をおとずれて、李白に面会できたら、このわたしが「あなたの近況はどうなのか」とたずねていたとつたえてもらいたい。
○南穴 浙江省紹興府の会稽山にある南の葬処。これは李白の客遊している地をさしている。○道 いえ、命令の辞。○訊 たずねる。○何如 李白の近況如何。