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昭君怨
秋木 萋萋(せいせい)として,其の葉 萎黄(いこう)す。
鳥有り山に處(を)り,苞桑(ほうそう)に集(むらが)る。
毛窒養育し,形容 光を生ず。
既に雲に升(のぼ)るを得て,上つかた曲房に遊ぶ。
離宮 絶(はなは)だ 曠(ひろ)くして,身體 摧藏(さいぞう)す。
志念 抑沈して,頡頏(けつこう)するを 得ず。
委食を得(う)と雖(いへど)も,心に徊徨(かいこう)する有り。
我 獨(ひと)り 伊(こ)れ 何ぞ,來往 常を變ず。
翩翩(へんぺん)たる燕,遠く西羌(せいきょう)に集(いた)る。
高山 峨峨(がが)たり,河水 泱泱(おうおう)たり。
父や 母や,道里 悠長なり。
嗚呼(ああ) 哀(かな)しい哉、憂心 惻傷(そくしょう)す。

昭君怨 王昭君












昭君怨  王昭君      

秋木萋萋,其葉萎黄。

有鳥處山、集于苞桑。

養育毛秩A形容生光。

既得升雲、上遊曲房。

離宮絶曠、身體摧藏。

志念抑沈、不得頡頏。

雖得委食、心有徊徨。

我獨伊何、來往變常。

翩翩之燕、遠集西羌。

高山峨峨、河水泱泱。

父兮母兮、道里悠長。

嗚呼哀哉、憂心惻傷。


秋の樹木が茂って(いるが)、
(やがて)その葉はしおれて黄ばむ(ことになる)。
鳥が山に棲んでいて、クワの木の根元に集まってくる。
羽を育てて、美貌は光り輝いている。
御殿に昇ることとなったばかりか、上つ方後宮に過ごす身となった。
皇宮は極めて広い(ので)、(我が)肉体は、衰えくじかれてきた。
(我が)心は、沈鬱になってきている、鳥のように(大空を)飛び上がったり、舞い下りたりすることができなくて。
養っていただいているとはいうものの、心の中では、(自由に)さまようことを思う。
養っていただいているとはいうものの、通行状態が世の常と異なっているのか。
身軽く飛ぶツバメは、はるか西の方のえびす。
(間を遮るが如き)高山は、高く険しく、川の流れは、水の深く広い。
父よ、母よ、(故郷、漢の地までの)道程は、遙かに遠い。
(故郷、漢の地までの)道程は、遙かに遠い、憂えた心で、憐れみいたんでいる。






 王昭君:前漢の元帝の宮女。竟寧元年(紀元前33年)、匈奴との和親のため、呼韓邪単于に嫁し、「寧胡閼氏」としてその地で没した。名は檣。ともするが、『漢書・元帝紀』では前者「檣」。昭君は字。明君、明妃は、「昭」字をさけたための晋以降の称。蛇足になるが、「竟寧」(辺境がやっと平和になった)という年号は、とても分かりよい。元帝の慶びが伝わってくる。そのような状況下での通婚である。この時代背景から推察するに、元帝がその美貌を惜しんだという話は後世のものになるのではないか。

 この外、多くの子供をもうけ、夫の没後は、匈奴の習慣に従った再婚をし、父子二代の妻となり、更に子供を儲けている。子供達の名も記録されている。当の本人の願望はともかく、漢・匈奴友好使節の役を果たしたとも謂え、辺疆安寧のための犠牲になったとも謂える。なお、王昭君の七十余年前に、烏孫公主の故事がある。烏孫公主は漢の皇室の一族、江都王・劉建の娘で、武帝の従孫になる劉細君のこと。彼女は、西域の伊犂地方に住んでいたトルコ系民族の国家・烏孫国に嫁した。ともに漢王朝の対西域政策と軍略を物語るものである。

『昭君怨』:空高く飛ぶ鳥のさまから己の身を想い、遙かに離れ去ることとなってしまった境遇を詠う。『樂府詩集』に基づく。『怨詩』は『古詩源』のもの。『怨曠思惟歌』ともする。



秋木萋萋:秋の樹木が茂って(いるが)。 ・秋木:秋の樹木。 ・萋萋:〔せいせい〕草が茂っているさま。

其葉萎黄:(やがて)その葉はしおれて黄ばむ(ことになる)。 ・萎黄:しおれて黄ばむ。

有鳥處山:鳥が山に棲んでいて。 ・處山:山に居る。 ・處:〔しょ〕おる。いる。とまっている。おちつく。

集于苞桑:クワの木の根元に集まってくる。 ・集于:…に集まる。 ・集:鳥が木にあつまる。(鳥が)とまる。とどまる。本来鳥が木につどうさまを表す。  ・苞桑:〔はうさう〕クワの木の根。根本のしっかりしたもの。ものごとの根本のかたいこと。 *現代語の諺“落葉歸根”を想起するが…。もしも発想が現代語の成語と同じとすれば、「季節の移り変わりで、草木は(葉を)黄葉させて散らし、鳥は、元の古巣へ帰る」となる。

養育毛羽:羽を育てて。 *素質を研いた(結果)。 ・養育:はぐくむ。養い育てる。 ・毛秩F鳥の羽。獣の毛と鳥の羽。羽毛。

形容生光:容貌は、光を放っている。美貌は光り輝いている。 ・形容:顔かたち。容貌。また、有様。形状。ここでは、前者の意。 ・生光:光を放つ。輝きを放つ。

既得升雲:御殿に昇ることとなったばかりか。 ・既:とっくに…となったばかりか。 *「『得升雲』となったばかりか『上遊曲房』となった」という感じを表す。 ・得:える。…になれた。 ・升雲:立身出世する。雲居に昇る。雲上人(の関係者)となる。「升」≒昇。

上遊曲房:上つ方後宮に過ごす身となった。 ・上:雲上。天上。皇室。 ・遊:あそぶ。過ごす。 ・曲房:曲がりくねった女房(女官のへや)。屈曲した御殿。後宮のことになろう。

離宮絶曠:皇宮は極めて広い(ので)。 *なかなか皇帝の寵愛にあずかれないことをいう。 ・離宮:皇宮以外に設けられた皇帝の宮殿。 ・絶曠:はなはだ広い。 ・絶:はなはだ。きわめて。 ・曠:〔くゎう〕広い。大きい。(遮るものが無く)明かである。

身體摧藏:(我が)肉体は、衰えくじかれてきた。 ・摧藏:〔さいざう;〕くじけひそむ。おとろえかくれる。 ・摧:〔さい〕くじく。くだける。ほろびる。おとろえる。 ・藏:〔ざう〕納める。おさめる。かくれる。ひそむ。かくす。

志念抑沈:(我が)心は、沈鬱になってきている。 ・志念:こころざし。こころざし思うこと。 ・抑沈:おさえしずめる。抑制する。おさえつける。

不得頡頏:鳥のように(大空を)飛び上がったり、舞い下りたりすることができなくて。 ・不得:(獲得)できない。 ・頡頏〔けつかう〕鳥が飛び上がったり、飛んで下りたりすること。

雖得委食:養っていただいているとはいうものの。 ・雖:…であるとはいっても。…といえども。 ・委食:〔ゐし〕委ねやしなう。まかせくわせる。

心有徊徨:心の中では、(自由に)さまようことを思う。 ・心有:心の中では、…を思う。 ・徊徨:〔くゎいくゎう〕さまよう。

我獨伊何:わたしだけ、そもそもどうして。 ・我獨:わたしだけ。 ・伊何:そもそもどうして。・伊:口調を整えリズムをとるために用いる。格別の意はない。「伊誰」。

來往變常:通行状態が世の常と異なっているのか。 ・來往:往ったり来たりする。 ・變常:人とは異なる。通常の状態を変えて変則的になっている。ただ、これらのように「往復する」の意とすれば、王昭君の身の上と合致しないので、「來往」を「既往」の意、「来し方、過去」とすれば合うが。

翩翩之燕:身軽く飛ぶツバメは。 ・翩翩:〔へんぺん〕鳥が身軽く飛ぶさま。すばやいさま。前出白居易『燕詩示劉叟』 の青字部分に同じ。

遠集西羌:はるか西の方のえびす。チベット系の民族の許にとどまっている。 ・遠集:遠く…にとどまる。 ・集:とどまる。鳥が木にあつまる。本来鳥が木につどうさまを表す。 ・西羌:西の方のえびす。チベット系の民族。

高山峨峨:(間を遮るが如き)高山は、高く険しく。 ・峨峨〔がが〕山の高くけわしいさま。山の高大なさま。姿の立派なさま。

河水泱泱:川の流れは、水の深く広い。 ・河水:川の流れ。 ・泱泱:〔あうあう〕水の深く広いさま。立派で大きいさま。〔やうやう〕雲の起こるさま。この字は韻脚なので○の意とする必要がある。蛇足になるが、この時代の平仄は、押韻部では、平、または仄の区分がはっきりとある。

父兮母兮:父よ、母よ。 ・兮:〔けい〕口調を整えリズムをとるために附ける辞。格別の意はない。

道里悠長:(故郷、漢の地までの)道程は、遙かに遠い。 ・道里:道のり。道程。 ・悠長:遙かにながい。

嗚呼哀哉:ああ、かなしいことであるなあ。 *これで成語のようになっている。 ・嗚呼:ああ。ため息するときの言葉。 ・哀哉:かなしいなあ。

憂心惻傷:憂えた心で、憐れみいたんでいる。もの思いに耽っている。 *表情や態度に表さない、心の中での歎きをいう。 ・憂心:憂え。心配。 ・惻傷:〔そくしゃう〕憐れみいたましくおもう。


  

  

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